◆キャラクターの心を乗せる“歌人のような俳優”

 歌人があるひとりを想うとき、力強い一首ができあがる。それが多くの読み手の「心にすっと溶け込む歌」だ。73回で工場を立て直すことになった舞に貴司が葉書で送った一首「君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた」は、歌集のために用意された300首のうち、唯一の恋の歌だった。

 歌人の俵万智は、この一首を自身のTwitterで絶賛し、恋するその人のために、「頼んでおいた」という距離感が絶妙だと評した。

チェリまほ
©豊田悠/SQUARE ENIX・「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会
 幼なじみから恋人になり、やがて結婚する。第21週97回は、目頭が熱くなった。だって、『チェリまほ THE MOVIE 〜30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい〜』(2022年)以来の、赤楚君が演じる結婚式の場面なのだ。

 結婚式のあとの夜、夫婦団らんの中、貴司は言う。「この幸せ、歌の中に閉じ込めよう思っててな」。

 短歌(同時に歌人の言葉)が人の心を表現しやすいのだとすると、赤楚は、演じるキャラクターの心を乗せる俳優だ。迫真の演技とか感情過多な演技のスタイルとは全然違う。役と対話を続けた結果として気持ちを自然と乗せられる。短歌を志す若き青年から夫へ。そして父に。これだけの変化を常に水平のとれた演技を保てたなんて。赤楚の演技スタイルは貴司そのもので、まるで“歌人のような俳優”ではないか。