◆恋人たちの窓辺

 貴司がどこか影のある感じで暗い部屋に戻っていったのは、会社の先輩からの電話のためだった。ひとりだけ営業成績をあげられず、肉体的にも精神的にも追いつめられ、悲鳴を上げていた貴司は、すぐに会社をやめて放浪の身になる。

 誰とも連絡を取らず、地元では騒ぎになる。何とか居場所を突き止めた舞が貴司に会いに五島へ行くのが、第7週。歌人を志す貴司の苦悩が描かれ、五島の海が次第に彼の心を解放した。

 朝、浜辺に座る貴司が手帳に書き留めた自作の短歌を見せてくれる場面がある。「星たちの 光あつめて 見えてきたこの道をいく 明日の僕は」は、爽やかな海風のような一首だ。

 貴司のピュアな心がこの名歌を詠ませた。その後、権威ある短歌賞を受賞した貴司は、第一歌集(『デラシネの日々』)を出版するため、編集者からダメ出しされながらも詩作を続ける。

 テーマとして提示されたのが、相聞歌、つまり恋の歌だった。貴司は、首を傾げるものの、赤楚君のあの一番星感が恋の光をチャージする。極め付けが、第19週94回。ある夜、舞が窓を開けると、目の前に貴司の顔が。ひげをはやしていかにも歌人という風貌の貴司の瞳が、ひときわ輝く。あぁ、この目だ。この目が、恋そのものなんだ。ふたりの窓辺が、恋人たちの窓辺として温められた瞬間だ。