ラストシーンと津田梅子
すべてが解決した後、バービーは虚構的・逃避的なユートピアであるバービーワールドを離れて現実世界の住人になる。ラストはバービーが満面の笑みで「婦人科を受診に」行くシーンで終わる。受診理由について特に説明はないが、(劇中でバービー自身が言っていたように)玩具として性器を持たなかった彼女が現実世界の住人として性器を持つことになり、ようやく“本物の女性性”を獲得した――という祝福的な解釈をするのが妥当だろう。
ちなみに、件の男女逆転SF時代劇である『大奥』は、ざっくり言えば「子づくり」と「世継ぎ」をめぐる物語だった。史実の徳川家と同様、子ができないことで政情が揺れ、世継ぎ問題で権力争いが繰り広げられる。そこで常に犠牲になるのは、「母=子を産む機械」として期待されていた“女”将軍たちだったのだ。
そんな「子づくり」をメインプロットとする『大奥』の最終話には、岩倉使節団に参加する6歳の津田梅子が登場する。後に日本の女子教育の先駆者にして津田塾大学の創設者となる彼女の登場をもって、「喜ばしき女性活躍」を読者に予感させるラストだった。
その津田は生涯独身を貫いた。子を産まない人生を選択した。一方のバービーはラストで子を産む機能を――あくまで機能のみを――獲得した。バービーはこの先、どのような選択をするのだろうか? それこそ議論の帰着ではなく開始のゴングが鳴り響いて、物語は幕を閉じる。
『バービー』
監督:グレタ・ガーウィグ
脚本:グレタ・ガーウィグ、ノア・バームバック
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング
2023年製作/114分
配給:ワーナー・ブラザース映画
公開中
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