物語はバービー(マーゴット・ロビー)やその仲間(名前は皆バービー)、そしてバービーのボーイフレンドであるケン(ライアン・ゴズリング)たちが住んでいるバービーワールドと、現実の街であるLAの2箇所で展開する。前者は朗らかでキラキラした女性中心社会の、後者は現実の男性中心社会の象徴。バービーとケンはその対照的な2箇所を行き来することで、価値観のギャップに驚き、傷つき、翻弄され、あるいは影響される。
男性中心社会で女性が被る理不尽は、LAのマテル社(バービー人形の販売元)に勤務する女性・グロリア(アメリカ・フェレーラ)が物語中盤で発する長台詞の抗議によって、的確に言語化される。言うなれば『82年生まれ、キム・ジヨン』的な切実さだ。
その言語化の後、返す刀で展開されるマチスモ(男性優位主義)批判は実に痛快だ。女性にフォトショップの操作を偉そうにレクチャーし、映画『ゴッドファーザー』のうんちくをたれ、投資について得意げに解説する男たちのマンスプレイニングぶりを笑う。デカい車や筋肉やギター弾き語りで女を魅了しようと必死な男の滑稽さを笑う。自尊心と嫉妬心に振り回される男性性のダサさを笑う。彼らの序列争いのくだらなさや幼稚さを笑う。
ただし本作は、「虐げられた女性たちが男どもに一泡吹かせる」といった単純な物語ではない。込められた真の批評性はその先にある。男性であるケンの抱えるアイデンティティの問題だ。
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