──そっちが聞いてきたのに?

イ・ラン:本当にそうですよ(笑)! 私のほうこそ「“結婚する予定は?”って、あまり他人に聞かないほうがいいよ」、と言いたかった。

 でね、そんなバドミントン教室で、昨年末に食事会をすることになったんです。私も誘われたんですけど、そこへ行ったらきっと「仕事は?」「結婚するの?」「子供は何人ほしい?」って話になるんじゃないかなと思って、「これは行かなきゃ」と思いました。

──あえて「行かなきゃ」と思ったんですね。それは、なぜですか。

イ・ラン:韓国のクィアコミュニティで使われているスラングで「二般(이반)」という言葉があります。これは、異性愛主義が「一般」になっている世の中に対して、クィアが自分たちのことを称するときに使われます。私は普段、「二般」の世界で暮らしているので、バドミントン教室のような「一般」の世界に行くことは、それ自体が「生命を担保にする社会実験」になるんじゃないかと思ったんです。

──まさに、この連載の趣旨を実践されることになりますね。結果は?

イ・ラン:食事会の最中は幸いにも、私が質問されることはありませんでした。生徒たちがこれまで気になっていたことをコーチに聞きまくっていて、「彼女いますか?」「彼女は、どんな人なんですか?」「結婚するんですか?」「給料はいくらですか?」「どんな車に乗ってますか?」と、次々に質問していました。驚いたのは、そんな個人的な質問をされまくっているのに、コーチは傷つく様子もなくむしろ楽しそうに答えていたことなんです。その光景は「二般」で見たことがなかったから、衝撃を受けました。