米国不在のTPP

 TPPは10年近く前までは、創設メンバーである米国が交渉をリードしていた。オバマ大統領(当時)は2015年4月27日行われた米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」でのインタビューで、「我々がルールを作らなければ、中国が(アジア)地域でルールを確立してしまう」と述べるなど、経済的台頭が著しい中国を牽制することを念頭に置いたものであることを明らかにしている。それをトランプ前大統領は2017年1月の就任と同時に、TPPから「永久に離脱する」との大統領令に署名した。

 日本は米国にTPP復帰を働きかけているようだが望み薄だ。再選を目指すバイデン大統領は2024年の大統領選を控えており、支持基盤の労働組合からの根強い反論を考慮すれば、少なくとも大統領選前のTPP復帰は困難だ。

 米国は代替案として、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を2022年5月に立ち上げた。日本を含む14カ国が参加を表明している。こちらはサプライチェーンの強靭化、脱酸素化に向けた連携強化、デジタル貿易の促進など新たな国際貿易のルール作りを目指しているが、TPPと違い関税削減による市場開放は目指していない。

 TPP加盟国で、米国とIPEF交渉をしている国の外交官は「IPEFは将来、米国がTPPに復帰するための地ならし」と位置付けた上で、「米国も中国も不在のTPPこそが、日本がリーダーシップを存分に発揮できる場所」と述べた。

 もし中国、台湾の新規加盟を巡る問題で、日本が一定の主導権を発揮することができるならば、それは日本外交にとり、大きな成果となる。