高校時代の鮮明な記憶をモチーフにした『神回』

 大林宣彦監督の『時をかける少女』(83)、押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)など、青春映画の定番にもなっている「タイムループ」ものでデビューを果たす中村貴一朗監督。普段は最新技術を使った映像の企画制作、撮影、ポストプロダクションなどを手掛ける「ソニーPCL」の社員として働いているが、劇場映画を撮ることが長年の夢だったそうだ。タイムループものの企画を思いついた経緯について語ってもらった。

中村「人間の内面を深掘りするようなシナリオをそれまで書いていたんですが、コンクールでは結果が残せなかった。そこでジャンルもののスタイルを取り入れることで、よりエンタメ性をアップできるんじゃないかと考えたんです。そんな折、コロナに感染して、ホテルで隔離生活を送ることに。公然と仕事を休んで、シナリオを書く絶好のチャンス。こんな機会は人生にそうそうありません(笑)。ホテルの一室に閉じ込められた環境で、学校に閉じ込められた状況の高校生の物語を3日間ほどで書き上げたんです」

 閉塞的な状況から抜け出すことができないという「ループもの」のアイデアには、中村監督自身の学生時代の体験も投影されている。

中村「東映ビデオが募集したテーマが『青春映画』だったわけですが、応募時の僕は35歳になっていました。この年齢になると、青春時代の繊細な記憶はあまり残っていません(笑)。唯一、残っていたのは休み時間の記憶でした。学生時代の僕は人とコミュニケーションするのが苦手で、授業と授業の合間の休み時間は自分の机に突っ伏して過ごしていたんです。寝たふりをしていれば、人と会話せずに済むわけです。寝たふりをしている間、いつもいろんなことを妄想しました。好きな女の子にアプローチするにはどうすればいいだろうとか、隣のクラスの生徒がゾンビになったらどうしようとか。そんな休み時間を繰り返していたんです。主人公の樹は、学生時代の僕自身が投影されているんです」