樹と恵那の2人は、なぜタイムループすることになったのか。また、恵那が樹に繰り返し語り掛ける「ありがとう」という言葉には、どんな意味が込められているのか。せつない秘密が、物語後半に明かされることになる。
中村「僕もそうでしたが、高校時代に人と会話するのが苦手だった樹は、大人になってから自分なりのスキルを身につけ、社会に適応するようになっていきます。でも、やっぱり高校時代の一瞬の出来事が忘れられず、大人になってからもずっと引きずり続けているんです。今を生きる若い人たちは、毎日が同じような学校生活の繰り返しにうんざりしているかもしれませんが、今こそが“神回”なんだということに、ぜひ気づいてほしいですね」
主人公の樹を演じた青木柚は、『うみべの女の子』(21)や『よだかの片想い』(22)などで好演し、本作とは性格が真逆な主演作『まなみ100%』(9月29日公開)やホラーサスペンス『Love Will Tear Us Apart』(8月19日公開)も控えている若手の演技派だ。恵那役の坂ノ上茜は、小沢仁志主演の犯罪アクション映画『BAD CITY』(22)で特捜班の新人刑事を熱演するなど、やはりこれからの活躍が期待されている。
中村「ワークショップを経て、2人に主演してもらうことを決めました。観た人が『あれ?』と違和感を覚えさせる組み合わせにしています。恋愛関係にはちょっと発展しないんじゃないかと思わせる2人を、あえて選んでいます。この2人の関係性は、映画を最後まで観てもらえれば納得してもらえると思います。わずか10日間ほどの撮影期間でしたが、すごく楽しかった。会社は休職扱いにしてもらうつもりで上司に相談したところ、会社の正式な業務として認められ、映画制作に1年間を費やすことができたんです。クライマックスのプロジェクションマッピングは、うちの会社が担当しています。本当に奇跡のような体験でした。クランクアップを迎えた瞬間は、クランクインした初日に戻りたいと願っていました(笑)」
映画監督にとって、デビュー作は特別な作品だ。オリジナル企画でデビューを飾った中村監督の文字どおりの「神回」だと言えるだろう。