無自覚にあふれ出る得体の知れない液体

 もちろん、これまでの日本語ラップが〈水〉を描いてこなかったわけではない。近年、優れた水の描写として真っ先に浮かぶのがJJJである。

 今年リリースされたアルバム『MAKTUB』でも、「like a water流れる川」(「Mihara」より)、「電気の消えたフロア/乾いたcupに水を一杯」(「Verdansk」より)、「今は眺めてる夜の海/感じているそれぞれとの距離」「泥臭い地面でも空は晴れ/お互いにいたいけな笑み/映る水溜まり」(「Something」より)、「音の立て方/今夜降りしきるはドラムの雨」「宇宙は彼方/チラついた時雨、黒い雫」(「Jiga」より)など、多彩なアプローチが目立った。JJJの功績は、ランドスケープとしての〈水〉をラップへと取り入れた点だろう。

 つまり、雨が、川が、海が、移ろいゆく時間への思慕として内なる心情を反映している。

「時間が流れる」という表現がある通り、水とは流動する性質を持っている。ビートは鼓動のごとく永遠に続く律動であるがゆえに、サイファーは人から人へ延々と続くがゆえに、〈水〉の移ろいとは極めてヒップホップ的なモチーフそのものだとも言える。

と同時に、〈水〉とヒップホップにまつわるもうひとつの解釈も指摘しておく必要がある。