性愛の比喩的描写はDADAも優れており、有名な「俺の首に垂らしてくれwater」(「Highschool Dropout」より)というラインでは、愛の交歓を滴るジュエリーの煌めきになぞらえた。「数字のことなんて忘れて溶け合った俺たちヘトヘト」「2人で浴びるシャワービショビショになった俺の指とベッド」という湿ったラップが魅力の曲「DOWN」も記憶に新しい。
だが、『“K”』を聴き進めると、さらなる多岐に渡った〈水〉の描写が広がっていることに気づく。
「YARUDAKEDASHI」では客演のMARIAに「普通って何?常識って何?/耳が痛くなる話はまじ無理/普通って何?常識って何?」というラインでオマージュを捧げた後に「ガソリンぶっかけ燃やしてやれBitches」と続け、“ガソリン”という水分を介して攻撃的なフックを仕掛ける。
他方で「HIGH」では、「Fly high2人回し見てる画面Ted/溶けるまぶたアイスクリーム/食べ頃のタイミング/落ちていくルーティン/ほぐしてるブルードリーム」と、 “溶けるまぶたアイスクリーム”という個体から液体へと変化していく描写によってチルで濃密な時間を優れたメタファーで表現する。
〈水〉に取り憑かれながら、直喩と隠喩を織り交ぜ写実的にリリックを綴っていくアプローチをここまで執拗に繰り返すラッパーは、日本語ラップ史においても稀有ではないか。
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