彼女ほど〈水〉について歌うラッパーもめずらしく、一見すると取るに足らない通俗性の反復によって本質をあぶり出すことができるという点で、ヒップホップとは何たるかを直感的に捉えているように思う。

 待望のファーストアルバムである『“K”』は、まずはとにかく酒を飲みまくるのだと宣言する「メニヘニ」「DRUNK」から始まり、続く「カラカラ」で「カラカラだし私のpussy/まだまだ降る雨土砂降り」というパンチラインによって、“酒”から“体液”へとテーマを移行させる。そもそもカラカラな状態を水分で潤すという設定自体は、日本語ラップにおいて散見される対比構造。

 BUDDHA BRANDの「井戸を掘るなら水が湧くまでディグる/東京砂漠にボルビック/ココ掘れワンワン/花咲かじいさんのように/イルの芽ばらまくギフト/焼け石に水なら」(「ILL夢Makers 76」より)や、ZEEBRA「逃げる水分の代わりにカクテル/乾いた喉に一気に流し込む/どうせ汗で飛ぶから大丈夫」(「Summertime In The City」より)などで触れられてきた通りである。

 性愛に関する欲望を液体の描写に喩える手法も取り立ててめずらしいものではなく、近年では例えばMaRlが「MaRlが来れば降らす雨ゲリラ」「首もpussyもdrippin’」「溺れちゃうジューシー」(「pussy wet」より)といったラップで繰り返し表現されてきた。