前半では難聴という設定が、ボタンの掛け違いを生むコミカルな要素としてあるが、後半ではシリアスさをより強調するために機能しており、前後編でまったく違う使い方がされているのだ。
また、上映時間の長いインド映画では、よく作中に「インターバル」が入る。文字通りの「休憩」という意味ではあるが、実はもうひとつ、観客側ではなく、映画業界にとっても利点がある。それは作品のトーンを変化させるのに役立つということだ。今作はそんなインターバルもうまく利用して、複数の脚本家によるシーンを調和させている。
監督を務めたスクマールは、近年ではアッル・アルジュン主演の『Pushpa』シリーズの監督として知られており、新作となる『Pushpa: The Rule – Part 2』が今年の12月に公開予定。もともとアクション・コメディを得意した監督であるが、必ずしもアクションとコメディのバランスが毎回うまくいっているとは限らない。しかし今作は、そんなスクマール監督作品の中でも、アクションとコメディのバランスが一番良い作品ともいえるだろう。
【ストーリー】
1980年代半ばのアーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯、ランガスタラム村。チッティ・バーブ(ラーム・チャラン)は、モーターを使って田畑に水を送り込むことを生業にする労働者。難聴で、他人の声がよく聞き取れない障碍を持っているが、さほど気にせずに毎日を楽しく暮らしている。彼は近所に住むラーマラクシュミ(サマンタ)に惚れて、調子はずれな求愛をする。一方、村は「プレジデント」を自称する金貸し兼地主のブーパティ(ジャガパティ・バーブ)によって牛耳られている。チッティ・バーブの兄で中東ドバイで働いているクマール・バーブ(アーディ・ピニシェッティ)は、プレジデントが好き放題にする故郷の村の有様を帰省した際に見て心を痛め、州会議員ダクシナ・ムールティ(プラカーシュ・ラージ)の力添えで、村長選挙に立候補して政治家として村の生活を改善していこうと思い立つ。