根底にはインド特有のカーストが影響しているし、差別されていたはずの人が、自分よりも下のカーストに対して差別をする。そういった差別の連鎖、独裁的な支配下で苦しむ人々を描いた作品はどこの国でも多く存在しているといる。特にインドの田舎を舞台にした作品ではよくある設定で、大筋のプロット自体はそれほどめずらしいものではない。

 しかし、『ランガスタラム』がそういった作品と圧倒的に違っている点は、ラーム演じる主人公・チッティが難聴という設定であり、それをギミックとして巧妙に機能させていることだ。

 設定を初めて聞いたときは、どうしてラームの役を難聴という設定にしているのかがわからなかった。だが、実際に作品を観てみると、巧妙な脚本の中で欠かせない要素であることがわかってくる。

 チッティは難聴ではあるが、右耳のみが聴こえづらいという設定。お調子者のチッティは、自分の都合の良いことや好きなことだけを聴いて生活していたが、そうもいかなくなってくる。聴こえなかったもの、聴こえないようにしていたものが、村民の苦しみを目にすることで、どうしても聴こえてきてしまうのだ。つまり、それが今作のひとつのテーマとなっている。