菜摘と佐保の物語と並行して、優の姪である美和の「父親探し」の物語が紡がれていく。美和が暮らす実家から、父親は出ていったという設定だが、これは千原監督のアイデア。千原監督が自身の生い立ちから、アートディレクターになるまでを振り返った著書『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』(CCCメディアハウス)を読むと、千原監督が10代のときに父親が家を出ていったことが語られている。女性たちを主人公にした『アイスクリームフィーバー』だが、千原監督自身の実体験も投影されている。
千原「僕が高校生のときに父親は家を出て行きましたが、その後も僕は父とはちょくちょく会っているので、美和と同じではありません。でも、子どもの頃の僕は、父のことが好きになれなかった。父はたまにしか家に帰らず、母が懸命に働きながら僕と弟を育ててくれたんです。そんな父ですが、僕が小さい頃にはよく映画館に連れていってくれ、僕が描いた漫画も読んでくれたんです。僕のクリエイティブな面は父からの影響が大きい。母から『子どもなんか産まなきゃよかった』という言葉を聞いたことがあります。それを聞いたときはつらかったけど、母はそれ以上にしんどかったと思うんです。家族って難しい。いちばん厄介かもしれない。今は父、母、弟それぞれと僕は仲良くやっています。意識したわけではありませんが、僕がこれまでに体験したことが、映画には否応なく反映されていると思います」
自分の生き方を、誰よりもまず自分自身が認めることで人生は動き出す。映画『アイスクリームフィーバー』は、自己肯定感をめぐる物語だと言えそうだ。自己肯定感を手に入れた主人公たちは、これからどんな人生をデザインしていくのだろうか。
『アイスクリームフィーバー』
原案/川上未映子 監督/千原徹也 脚本/清水匡
音楽/田中知之 主題歌/吉澤嘉代子 エンディングテーマ/小沢健二
出演/吉岡里帆、モトーラ世理奈、松本まりか、詩羽(水曜日のカンパネラ)、安達祐実、南琴奈、後藤淳平(ジャルジャル)、はっとり(マカロニえんぴつ)、コムアイ、新井郁、もも(チャラン・ポ・ランタン)、藤原麻里菜、ナツ・サマー、MEGUMI、片桐はいり
配給/パルコ 7月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント、渋谷パルコ8F WHITE CINE QUINTほか全国ロードショー
©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会
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