千原「川上未映子さんの著書の装丁をしたり、以前からお付き合いはあったのですが、僕が『ウンナナクール』のアートディレクションをするようになり、キャッチコピーを担当する川上さんと仲良くなりました。川上さんにとって、これが初めての映像化作品です。オファーはいろいろと来ていたはずですが、川上さんもこだわりがあって、安易な映像化は許可してこなかったんです。今回、川上さんは『アイスクリーム熱』を原案として提供してくれただけでなく、『千原くんの考えはいいと思うよ』とも言ってくれた。川上さんに後押しされたのは大きかった。『アイスクリーム熱』はわずか22ページの短編小説ですが、それをどう膨らましていくのかを考えるのがすごく楽しかったですね」
海外での評価も高い川上未映子の小説だが、映像化されるのは短編集『愛の夢とか』(講談社)に収録された「アイスクリーム熱」が初となる。小説では、菜摘が恋する相手は年上の男性作家だ。映画化するにあたり、相手役はモトーラ世理奈となり、優と美和の共同生活のエピソードが加わるなど大きく変わった。
千原「僕は、多くの映画の内容がエンタメすぎることが疑問としてあったんです。登場人物の誰かが死なないと感動できないとか、それはどうなのかなと思うわけです。誰かが死ななくても、日常生活の何気ないシーンを描くことで映画はつくることができると僕は思うんです。その点、川上さんの小説は僕のイメージにぴったりでした」
劇中、「うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということ。つまり、その素敵さは今のところ私だけのものということだ」という菜摘の独白がある。千原監督との話し合いの中で、川上が考えた台詞だそうだ。
【こちらの記事も読まれています】