鳥谷敬と長野久義の偉大さ
――本書で取り上げている選手や監督の中で、特に読者に読んでほしいパートはありますか?
中溝 個人的に好きなのが、2021年に引退した鳥谷敬さん(元阪神、ロッテ)ですね。阪神でレギュラーだった頃は、巨人ファンの私から見ても「安定したいい選手だけど、ちょっと覇気がないな」と思っていたんですよ。もう少し感情を表に出してチームを引っ張るべきだって。でも、引退前後に出した書籍などを読むと、阪神という異常なほどに注目度が集まるチームで生き残るために、そういうキャラを演じていたと。鳥谷さんの歴代2位の1939試合連続試合出場は、自分が中年になってさらに凄さを実感しますよ。どんな仕事でも、体調とモチベーションを維持してずっとステージに上がり続けるというのは難しいですから。
――「常に出続ける」ことの重みは、若手よりも30~40代のほうが、より感じるかもしれませんね。
中溝 鳥谷さんは、若いうちはチームより自分のためにプレーをしてスキルを磨き、力がついてきたところで初めてチーム全体を見るのがいいんじゃないか、ということも著書で書いていますが、マジで20代のうちに教えてもらいたいよなと(笑)。「自分のことだけ考えていればいい」と言ってくれる上司って、そうはいないじゃないですか。
――中溝さんが愛してやまない巨人の選手で、特に思い入れの深い人はいますか?
中溝 長野さん。長野久義選手ですね。ドラフト会議で別の球団からの指名を2度も拒否して巨人に入団し、チームの主力として貢献してきた選手です。それが、フリーエージェント宣言をした丸佳浩選手を獲得するにあたり、2019年に人的補償で広島に移籍することになります。いわば、会社都合で理不尽に飛ばされた。でも、恨み節をこぼすことなく、むしろ前向きなメッセージを発して新天地に向かいました。これは、なかなかできることじゃない。もし自分ならSNSで愚痴ってますよ(笑)。実際、何社か退職するときがありましたが、長野さんのように振る舞うことはできなかったんで。その経験を振り返ると「長野久義、偉大だな!」と思いますね。