それでも、この物語に触れてほしい理由がある

 それでも、『推しの子』は決していたずらにセンセーショナルな題材を扱っているだけではないと改めて断言できるし、現実のアイドルや芸能人の辛い心情を当事者の立場で考えることができる、素晴らしい作品であると筆者は思えた。それこそ、恣意的に受け手を誘導するワイドショーのニュースとは異なる、「物語」がある創作物の持つ役割であるし、SNSを扱うことが日常になっている若い人の多くに見られる現状は、とても喜ばしいと思う。

 さらに、『推しの子』は作品のクオリティそのものが高い。かなりぶっ飛んだ設定が序盤からあるものの、それも観続けて(読み進めて)みれば周到な計算の元で打ち出されたことがわかる。アニメは第1話が83分という映画並みのボリュームで、劇場公開されたことも納得の起承転結のある、衝撃的かつ見応え抜群の内容。さらに第1話と第7話のラストでは、入念な描き込みがされたアニメの表現と、声優の熱演もあればこその感動も待ち受けていた。

 重ねて(前述したように無理には勧めないが)木村響子さんの批判と、それに対する論争にモヤモヤした方こそ、ぜひ『推しの子』という作品に触れてほしいと思う。劇中の文言のすべてを鵜呑みにするのもまた危険であるが、現実の芸能界にある問題を再認識し、自身のSNSの使い方を省みるきっかけにもなれば幸いである。