創作には暴力性がある

『推しの子』に限らず、創作物は現実に起こる世界の悲劇を取り扱うことが多く、その結果として誰かを傷つける可能性をはらんでいる。

 例えば、2022年12月に放送されたNHKの『クローズアップ現代』でアニメ映画『すずめの戸締まり』が取り上げられた時、新海誠監督は「創作には暴力性がある」という重い言葉を告げていた。番組内で作品への賞賛の言葉があがる一方、妻を震災で失った男性からは「なぜこんなものを作ったのか」と憤りに近い言葉が投げかけられていたからだ。

 その上で、新海誠監督は「誰かを傷つけないよう、慎重に傷つく部分を避けて描かれた物語は、誰の心にも触れない」とも語っていた。『すずめの戸締まり』は、映画で続けて災害を描いてきた新海誠監督が、東北大震災から10年以上が経ってようやく真正面から向き合い、「誰かを傷つけるかもしれない」という覚悟の上で世に送り出した作品とも言えるだろう。

 対して、『推しの子』のアニメは木村花さんが亡くなってから3年と比較的間もなく、その命日に近いタイミングで連想させるエピソードが放送されたことは事実。それが意識的にせよ無意識的だったにせよ、その批判は作り手と送り手が重く受け止めなければいけないだろう。そもそも、現実にもある悲劇をエンターテインメントをもって提示することそのものに賛否両論はあるだろうし、今回のような論争が起きるのは当然でもあると思う。