無理には勧めない、だがモヤモヤした人こそ観てほしい

 そして、『推しの子』の劇中では恋愛リアリティショーが世界各国で人気の反面、50人近くの自殺者を出しており、国によっては法律で出演者へのカウンセリングを義務付けている、その10倍は死ぬほどの思いをした人がいるかもしれないといった、危険性もはっきりと語られる。

 その上で、SNSでの炎上と誹謗中傷により自殺未遂まで追い込まれる心情が痛切に描かれているのも事実なので、木村響子さん本人や、木村花さんのファンには無理には勧めない。似た経験がある人はフラッシュバックを起こす可能性があるし、そうでなくとも自殺を考えるほどの辛い展開に抵抗がある方は観ないほうがいいかもしれない。

 だが、それでもなお、アニメ『推しの子』を実際に観て(原作漫画も読んで)みれば、「観た(読んだ)人の心を傷つける」ほどの描写は作品には必要であったし、決していたずらにこの題材を取り上げただけではない、確かな信念を込めた誠実な作品であると心から思えた。この現実での論争でモヤモヤした気持ちを抱えたり、傷ついた(または傷つけた)人にこそ観てほしいと願えたのだ。