現実にある残酷さへ「反撃」する構図

『推しの子』のアニメの第5話(原作漫画では第3巻)から7話にかけての恋愛リアリティショーのエピソードでは、番組内で目立たないままだった出演者の女の子が、マネージャーが事務所の偉い人からキツい言葉をかけられる様を目の当たりにして責任を感じ、本人の生真面目な性格もあって、どうにか「爪痕を残そう」とした結果、事故でライバルとなる出演者の顔を引っ掻いて傷つけてしまう。このことで彼女はSNSで大バッシングを受け、精神的にひどく追い詰められ、ついには歩道橋から飛び降りようとする。

 だが、物語は悲劇のままでは終わらない。実際に本編を観てほしいので詳細は秘密にしておくが、普段は冷静な主人公の少年は「でも、このままってのは気分悪いよな。煽った番組サイドも、好き勝手言うネットの奴等にも、腹が立ってしょうがないんだよ」と激しい怒りを見せて、ある危険な賭けに出る。この賭け自体は劇中でも批判的な言及がされているものの、その後の展開は恋愛リアリティショーに限らない、現実の芸能界にはびこる残酷さへ、フィクションで思いっきり「反撃」しているように思えた。それでいて、結末は安易な解決を用意しない、「現実でもきっとそうなるのだろう」とリアルに感じるものでもあった。

 主人公の少年はこうも言っていた。「人は簡単に死ぬ。誰かが悲鳴を上げたら直ぐ動かなきゃ手遅れになる」と。これは、「誰かが自身の死を願うほどに苦しんでいることに気づいてほしい。そうすれば、間に合うんだ」と、作り手がこの問題に真摯に向き合い、心からそう願っているからこそのセリフなのではないか。