福永「今、映画を撮るからには、現実の社会になるべくリンクさせようと思い、現代に通じるテーマを盛り込もうという意識がありました。僕が強く感じるのは、現代社会は不可視化された部分がとても多いということです。例えば、食事の際に口にする肉料理ですが、動物たちが屠殺され、解体され、精肉化されていく工程を普段は見ることがないわけです。人間が生きていく上での穢れ(けがれ)や業(ごう)といった必然的なものが、現代社会では切り離されている状態です。でも、起きていること自体は今も昔もそれほど変わりません。見えないところで誰かが代行しているだけなんです。現代でも差別や貧困に苦しんでいる人はいます。この映画で描かれている世界は、決してはるか昔のことでも、遠い国のできごとでもありません」

 主人公・凛を演じたのは、いじめ問題を扱ったバイオレンス映画『ミスミソウ』(18)がインパクト大だった山田杏奈。福永監督は「姥捨伝説」を題材にした映画『楢山節考』(83)を観ることを山田に勧めたそうだが、山田は他にもアニャ・テイラー=ジョイが主演したサイコスリラー『ウィッチ』(15)なども観て、役づくりに努めている。

福永「海外でも同調圧力が生じるケースはもちろんありますが、日本はやはり独特な形で同調圧力が存在している社会だと感じます。それは、今も昔も変わらないでしょうね。山田さんには脚本を読んでもらい、凛はどんなキャラクターなのか、いろいろと話し合い、理解を深めてもらいました。でも、撮影現場では僕から細かい指示は出していません。もともとの山田さんが持っていたひたむきさや人柄的なものが、凛役を通して自然に出ているように感じます」