土地から感じるエネルギーを取り入れていった森山未來

 村人たちから恐れられる“山男”を演じるのは森山未來。肉体労働者役だった『苦役列車』(12)、ロートルボクサー役の『アンダードッグ』(20)、チョウオーグを演じた『シン・仮面ライダー』(23)など、作品ごとに入念に役づくりする森山は、台詞をひと言も発することなく異形の存在になりきっている。

福永「山男のビジュアルをどうするかは苦心しました。妖怪ではないが、普通の人間でもない存在としてのバランスに気をつけました。撮影は主に山形で行なったんですが、森山さんはクランクイン前から山に入って、その土地から感じるエネルギーを自分の中に取り込んでいったようです。撮影中も、休憩時間になると森の中でいちばんの大木にするすると登り、木の枝の上で昼寝をしていました。スタッフみんな、唖然としていました(笑)」

 山男が暮らす森の奥にある洞窟は、実際に縄文人や弥生人が暮らしていた場所だそうだ。三姉妹の女神たちの伝説が言い伝えられる早池峰山など、東北の山々や森もキャストと同じように重要なキャラクターとしてカメラに映し出されている。

福永「米国人の撮影監督ダニエル・サティノフに、撮影を頼みました。幼い頃のダニエルは、ネイティブアメリカンの昔話を読むのが大好きだったそうです。ネイティブアメリカンの伝説も、自然の中に神を見出すものが多い。『遠野物語』の世界と通じるものがあったようです。ダニエルは東北の山や森に対して、敬意を持って撮影してくれました。自然に対する深い想いがないと、ああいう映像は撮れません。撮っている人の心情は、映画の中に必ず反映されるものですから」