日本人の源流を感じさせる『遠野物語』

 福永監督は、NYで暮らすアフリカ移民を主人公にしたデビュー作『リベリアの白い血』(15)が話題となり、北海道で暮らすアイヌの人々を描いた第2作『アイヌモシㇼ』(20)も国内外で高い評価を受けている。本作は3本目となる劇場映画だ。

 異なる文化の対比を描くのが、福永監督はうまい。『リベリアの白い血』では、貧しいながらも家族と暮らすアフリカのゴム園での生活と、NYで非合法のタクシー運転手として孤独に働く日々が対照的に映し出されていた。『アイヌモシㇼ』では現代社会に生きる主人公の少年とアイヌの伝統的文化や世界観とのギャップが鮮明に描かれた。異なる価値観のはざまで、福永監督作品の主人公たちは葛藤することになる。

 本作の主人公となる凛も、差別や身分格差の激しい村を離れ、何もない山で暮らすことで、初めて人間らしく生きることを実感する。人間社会と大自然での生活が実に対照的だ。2003年以降、長年にわたって米国で暮らしてきた福永監督だけに、同調圧力やジェンダー不平等の強い日本社会に対する客観的な視線を感じる。

 本作の原案となった『遠野物語』に興味を持った経緯などを、福永監督に語ってもらった。