「あの時の親の気持ちがわかった」

 日本の出生数は2022年度、統計開始以来最低の80万人割れとなった。加速する少子化の要因は様々あるだろうが、「子供をつくった結果QOLが低下する」という大きなコストに見合う「リターン」を多くの人が見いだせていないことも、原因のひとつではないか。

 要は、子供をもつことは「コスパが悪い」と思われているわけだ。

 では、そもそも「大きなコストに見合うリターン」とは何だろうか。優等生的な答えとしては、「子供の成長を間近で見られる」「子供から無条件に愛される」「親として人間的に成長できる」「家がにぎやかで楽しい」あたりが定番か。やや打算的な答えとしては、「老いたときに寂しくない」「将来、介護してくれる(かもしれない)」といったものもあるだろう。

 しかし『アフターサン』という映画は、もっと別のリターンに気づかせてくれる。そのヒントとなるのが、31歳になったソフィには産まれて間もない子供がいる、という劇中の描写だ。

 子をもった親は必ずと言っていいほど「子供を育てて初めて、あの時の親の気持ちがわかった」と口にする。人は子供をもつと、自分が我が子の年齢だった頃の親のことを考える。我々は、そう考えるようにプログラムされている(としか思えない)。

 かつて人生のある時期に、人知れず必死で何かと戦っていた状況を、どうにかして理解しようとしてくれる他者がこの世に存在するという実感は、それ以上因数分解することのできない、プレミティブな幸せそのものだ。人はいつだって、頑張っている自分を、自分以外の誰かに認めてもらいたい。