回想禄なのに回想主がいない

 11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)が、今は離れて暮らす31歳の父親カラム(ポール・メスカル)と、トルコのリゾート地で数日間まったりと過ごす。『アフターサン』はただそれだけの、シンプルな物語だ。長尺化が進む昨今の映画の中でも珍しく、本編は101分しかない。

 本作の宣伝文句には「11歳の娘ソフィが父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後、父と同じ年齢になった彼女の視点で綴る」とある。実際、都合2回登場する現在時点でのソフィは、2回目の登場時、トルコ滞在中にビデオカメラで撮った父親の姿を再生して思いに耽っている。この映画はソフィの回想録なのだ。