ヴェルディというクラブは何故人気があったのか?強かったからだ。93年・94年と2年連続でJリーグ年間王者に輝いた実績に間違いはない。その強さの源流について、小見が言及している箇所がある。ある高校生を視察した際の話だ。
選手をスカウトするにもヴェルディは他のチームとは違う。
実際にぼくがスカウトした一つの例がある。(中略)ボールと遊ぶのがじつに器用で、ぼくの見た感じでは京都府のなかでもナンバーワンの選手。柔らかさと技術に限りない将来を感じる。
風貌もロングヘアでいまから北沢みたいになっている。
「他のチームから声が掛かってるの」
「いえ、ありません」
意外な返事だった。
「大学は?」
「ありません」
関係者に聞いてみると「いやあいつはちょっと」とか「ロングヘアと態度がね…」とフンイキだけでノーと答える。(P40)
小見はこの風潮に“ノーと答える”。
たかがロングヘア、それに目立って態度がデカイ、といってもちょっとはみ出しているくらいでたいした問題ではない。
ぼくなんか、というよりヴェルディはそんなやんちゃな子にグッグーと魅かれてしまう。自分にこだわりを持っている子ほどプロ向きなのだ。(中略)何が良くて何が悪いかの基準がヴェルディと他のチームとはまったく違う。(中略)マジメ、不マジメ、挨拶ができる、できない、タバコを喫う、酒を飲む、そういう外に見えるものだけで人間を判断することは間違いだ。
「これだけは誰にも負けない」が彼らの技術の中で発見できたら進路について真剣に考えてやるのも大人の務めのはずだ。
「あんな奴、ろくでもない」
そういわれて集まってきたメンバーが、いまヴェルディの主力として活躍している。
カズも、北沢も“やんちゃでナマイキ”のレッテルを貼られ「ろくな奴じゃない」と周囲から冷たくいわれたのをバネにして、ヴェルディに来てスターになった。
ぼくらも「結果を出しさえすれば何もいわない」とヴェルディイズムで自由にやらせた。(P42-P43)