ただ、これだけ包み隠さず書いている割には、女性関係の記述が意外と少ない。遊んでいること、女の子が大好きなことはそれなりに書いてあるのだが、肝心なところはボカしている。その辺りは流石に選手を守ったのか、それとも“交際相手”を守ったのか。その辺は定かではないのだが、女性関係への数少ない具体的な記述が、当時期待の若手ストライカーであった藤吉信次への一問一答に表れている。好きな音楽は?という質問に対する藤吉の回答が以下である。

 ディスコが大好きで、よく武田さんに連れられていき、ナンパ役ばかりさせられて

(P219)

 武田、とはもちろん現在も独身貴族を貫き続ける武田修宏その人である。現役時代の武田を知っている人であれば、この述懐にクスリと笑みを浮かべてしまうはずだ。武田はゴール前のこぼれ球を拾って得点を決める“ごっつぁんゴール”が多い選手だった。それだけ点取り屋としての嗅覚に優れていたのだ。しかし、後輩の藤吉にナンパだけさせて、自分は美味しいところを持っていったということは「武田は夜も“ごっつぁんゴール”が基本戦術だった」ということになる。ちゃんとサッカーを観ていると、こうした伏線も回収出来る。サッカー本を読むだけでも楽しいが、やはり観戦することも忘れないで欲しい。

 これだけ選手たちの“やんちゃ”に寛容な小見だが、ある選手にだけはチクリと嫌味を言っている。その男とは、ラモス瑠偉。サッカー大国ブラジル出身ながら、W杯に出場するために日本へ帰化した、Jリーグ黎明期を象徴する選手の一人である。