『銀河鉄道の夜』を連想した理由
これまで『怪物』の劇中の2人の子どもが同性愛者であると語ってきたが、本当にそうではあるとは言葉ではっきりと語られない。2人の物理的な距離がものすごく近く、仮に心臓の鼓動を早くした、精神的な結びつきが強固なものであったとしても、それが同性愛であるかどうかという感情の揺らぎは「淡い」ものとしても描かれているように思う。その淡さは、先に挙げた是枝監督の「誰の心の中にでも芽生えるのではないか」という言葉につながっているのではないか。
また、劇中の電車というモチーフから思いだしたのは、宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』だった。2人の少年だけの旅路が儚く危うく思える様、そして「少年の内的葛藤の話」であることも『怪物』の内容とも一致している。
事実、シネマトゥデイの記事にて、電車の秘密基地は「丸ごと作った」こと、その場所を坂元裕二に見てもらってから脚本の決定稿が書かれたこと、是枝監督自身が脚本を読んで実際に『銀河鉄道の夜』をイメージし、黒川想矢と柊木陽太の子役2人に『銀河鉄道の夜』を読んでおくように告げたことが語られている。
映画『怪物』での少年2人の哀しい旅路は、美しい光景と、坂本龍一の音楽も相まって、鮮烈な記憶として思い出すことができる。その言葉にならない、胸を締め付けられるような体験ができたのも、『銀河鉄道の夜』からインスパイアされたためでもあるだろう。
『怪物』は、やはりLGBTQを扱ってはいるが、はっきりとした問題提起をすることそのものが目的ではない。『銀河鉄道の夜』と同じように、創作された物語だからこその、観客それぞれが主体的に作品の内容を考えられるだけの、苦しくさえある感情を呼び起こすことに、意義がある作品だと思うのだ。
『怪物』 6月2日(金) 全国ロードショー
キャスト:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 / 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子
監督・編集:是枝裕和『万引き家族』
脚本:坂元裕二『花束みたいな恋をした』
音楽:坂本龍一『レヴェナント:蘇えりし者』
企画・プロデュース:川村元気 山田兼司
製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福
配給:東宝 ギャガ
C)2023「怪物」製作委員会