●価値観をアップデートするのか、多様性を尊重するのか
ところで『新世紀エヴァンゲリオン』という作品には、ざっくり言って2つの世界線が存在する。ひとつは、1995~96年のテレビシリーズおよび1997年の旧劇場版(旧エヴァ)。もうひとつが、2007年から2021年にかけて全4作が劇場公開されたリブート版(新エヴァ)だ。
旧エヴァと新エヴァは、基本的な設定や描かれる時系列、途中までの展開は同じだが、後半の展開や結末が大きく異なる。それでいて両作はそれぞれ独立した作品として自立しており、それぞれに持ち味がある。その意味で旧エヴァと新エヴァは、マルチバース的な並行世界同士と捉えることもできよう。これも実に「スパイダーバース」的だ。
ただし『新世紀エヴァンゲリオン』の場合、旧エヴァではどうしようもなく決着がつけられなかった(と視聴者の目には映った)物語を、リブートすなわち「一から作り直す」ことで文字通り決着をつけた。言ってみれば、「前のやつはなかったこと」になっている。実際、新エヴァの“成熟した大人の結末”は、旧エヴァの“少年のように無垢でとげとげしい結末”とは非常に対照的だ。
対して『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』では、同時に存在する複数の並行世界をすべて尊重しながら、それでも世界が崩壊しない方法を主人公たちが模索する。つまり、別の世界線を「なかったこと」にはしない。というより、世界の成り立ち上「なかったこと」にはできない。
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