『スパイダーバース』が画期的だったこと
マルチバース的な並行世界のそれぞれに存在する複数のスパイダーマンの集合と活躍を描いた前作『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)は、2つの点で画期的だった。日本のリミテッドアニメ的な見せ方(演出、アクション)の美学やケレン味を、アメコミ的・ポップアート的ルックと掛け合わせて最高の形で本歌取りしたこと。そして、別の並行世界(別のユニバース)の世界観を、なんと「そこに属するスパイダーマンの画風(タッチ)の違い」によってメタレベルで表現したことだ。
今作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』では、その2点が怒涛のように進化している。冒頭、ヒロインであるスパイダー・グウェンのアクションは、1980年代以降の典型的な作画キレキレ日本製アニメの躍動感を彷彿とさせるし、山場の集団攻防戦は、ここ20年ほどの日本製アニメ的・ゲーム的演出の集大成といった趣がある。また、洗練されたポップアートや水彩画がそのまま動いているかのような――いわゆるアートアニメ的な――表現が決して高踏に構えていない点も素晴らしい。エンタメ作品ながら「開かれたアート」として成立しているのだ。
各スパイダーマンが背負う世界観の差異は、キャラのタッチ描き分けによって表現されるのみならず、彼らが住まう街の画調にまで及ぶことになった。登場する5つの並行世界(同じ現代の地球だが、世界線が違う)は背景美術や色使いのテイストがすべて異なるのだ。言ってみれば、画風がまったく異なる5人の漫画家がコマごとに作画を担当し、1本の作品を共作しているようなもの。とにかく贅沢、クリエイティブに貪欲で際限がない。思いつく限りのトッピングを全部乗せました感が、観ていて実に気持ちいい。
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