グウェン・ステイシー=葛城ミサト
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』で描かれる、とある並行世界では、街に大勢のスパイダーマンがあふれている。そこでのスパイダーマンは唯一無二のスーパーヒーローではない。しかも、それら多数のスパイダーマンは主人公を襲ってくる。これは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(97、通称:旧劇場版)でエヴァ弐号機に襲いかかってくる量産型エヴァシリーズを彷彿とさせる。
スパイダーマンvsたくさんのスパイダーマン、エヴァvsたくさんのエヴァ。この状況が示すのは、もはやスパイダーマンであるというだけで(あるいはエヴァであるというだけで)唯一無二のヒーロー/主人公/正義の味方ではないという事実だ。「スパイダーマンである」という属性タグだけでは何も解決しない。大事なのは出自や所与の特殊能力ではない。「個人として主体的に何を決断し、どう行動したか」だ。
出自や所与の特殊能力は、個人の努力でどうにかなるものではない。という意味では、出自や所与の特殊能力に基づく生き方や物語は、とても運命論的・決定論的であるといえる。しかし『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のマイルスはそれに抗う。ミサトも、実行されようとしているとてつもなく大きな確定的シナリオを止めようとする。
そのミサトにあたるのが、スパイダー・グウェンことグウェン・ステイシーだ。マイルスとは別の並行世界に住む、マイルスに対してはややお姉さん的な立ち位置の少女。シンジの上司かつ姉貴分であるミサトに近いものがあるし、父親に対する感情をややこじらせている点も、ミサトに重なる。
なにより、途中まで忠実に従っていたNERVに突如反旗を翻したミサトの行動に非常に近い行動を、グウェンは取る。その行動に大きく影響を与えたのがマイルス(=ミサトに対するシンジ)であるという点も、状況が重なる。