シュレイダー「この20年間で映画業界はテクノロジーが大きく変わった。デジタル化されたことで、予算をかなり抑えて映画を撮ることができるようになったんだ。今までだったら、諦めなくちゃいけないようなシーンも撮ることが可能になったんだ。今回は『魂のゆくえ』『カード・カウンター』『Master Gardener』(22)と3本の映画を同時に制作したんだ。3本同時進行なんて、昔なら考えられなかった。それとファイナルカット(編集権)が自分のものになったことも大きかった。自分が撮りたいと思っていたことを、思うように撮ることができるようになったんだ」

 ポール・シュレイダー監督は現在76歳。実は1週間前に取材の予定だったが、直前でキャンセルとなり、この夜は2度目のトライだった。シュレイダー監督はかなりお疲れの様子だったが、映画づくりを楽しんでいることが言葉からは感じられた。

 オスカー・アイザック演じるウィルは、独特の美学の持ち主だ。ホテルの部屋にある家具や照明類はすべて白い布で覆い、ひとつひとつ丁寧に紐で縛り付けている。異様な強迫観念めいたものを感じさせるシーンだ。このアイデアはどのようにして生まれたのだろうか?