こうして信昌は長篠の戦いの後の天正4年(1576年)、亀姫と再婚することになりますが、その夫婦仲を具体的に知ることができる逸話はあまり残されてはいません。しかし、2人は4人の男子と1人の娘をもうけました。また、信昌は側室を持つことはありませんでした。こうした事実から亀姫との仲は長期にわたってよかったとも考えられるでしょうが、「天下人」家康の娘婿としての地位を保ちたい信昌にとっては、妻、ひいては義理の父親の機嫌を損ないかねないような問題は極力避けたかったというのが、秘められた本音かもしれません。

 信昌と亀姫の政略的な結婚についてはこのように背景が明白ゆえに、ドラマ第21回で描かれるという、信長が家康に提示する参戦の「驚くべき条件」には当たらないような気がします。個人的には、家康の重臣・酒井忠次(大森南朋さん)を「オレに寄越せ(もしくは、しばらく貸してくれ)」という“スカウト”が条件になるのではないか……と考えてしまいました。

 長篠の戦いは、武田の騎馬軍を打ち破った信長の鉄砲隊の大活躍ばかりが注目されがちですが、それはフィナーレに過ぎません。戦いを徳川・織田連合軍の勝利に向けて大きく動かしたのは、酒井忠次が信長の軍議において考案し、信長を感嘆させたとまでいわれた鳶ヶ巣山砦奇襲作戦の成功でした。それゆえに、ドラマの信長が忠次に目を付ける展開もあるのではと思った次第です。史実の忠次は、本来の主君である家康を飛び越えて信長と意気投合する場面もしばしばあったと考えられており、ドラマでも信長と忠次の意外なツーカーぶりが描かれるかもしれません。

 しかし、次回・第21回「長篠を救え!」では開戦まで話が進むようにも思えず、件の奇襲作戦がドラマで描かれたとしても第22回以降の話でしょう。次回はその前段階、つまり奥平信昌が守る徳川方の有力な軍事拠点・長篠城を武田勝頼の大軍が取り囲み、窮地に陥った長篠を救うか否かが話のメインとなるであろうと考えられます。