◆BLとは、夢の世界に近い
はたまた、BL的な要素を感じる描写について、LGBTQへの「配慮」という見方もある。BL世界をこよなく愛する筆者からすると、こうした見解にもやはり首を傾げてしまう。
そもそもBLとは、必ずしも現実のLGBTQ文脈では、語りきれないところがある。BLが、男性同士の恋愛を描くからといって、それをLGBTQの「G」であるゲイ的なものだと決めつけてしまうのは、いささか乱暴というか、早計だと思うのだ。
高山真の同名小説を原作に、鈴木亮平と宮沢氷魚が見事なゲイ像を体現した『エゴイスト』(2023年)は、BLではなく紛れもない「ゲイ映画」だった。
同作を現今のLGBTQの文脈で読み解くのは当然可能だし、あの作品世界には、当時のゲイ界隈を生きた作者の実体験が自伝的に込められてもいる。ゲイ映画と現実のLGBTQは、確かに不可分な関係性にある。
対するBL世界では、そこまで現実の社会状況をダイレクトに反映させる必要性をあまり感じないのが、筆者の持論だ。BLとは、もっと夢の世界に近い感覚。よりフィクション性が強い。
例えば、現在のBL文化に深い影響を与えた漫画家の萩尾望都が、創作態度としてきた「ここではない、どこか」は、まさに夢の世界へも憧れではないか。
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