久しぶりに再会した中学時代の親友・石田(松重豊)からは、トドメの一発を浴びせられる。酒を飲んでも本音を吐こうとしない周平を、「お前はガキの頃から自分勝手だ」と一喝する石田だった。言い返せない周平は、年甲斐もなく、親友に対してケンカ腰になってしまう。

 どこまでもカッコ悪く、醜態をさらし続ける周平だった。

 劇中、大きな事件は起きない。あるとすれば、かつての教え子・平賀南(吉本実憂)が働く定食屋でお金を払うのを忘れてしまい、南に追い掛けられるシーンぐらい。しかし、事件を描かずとも、主人公の心の中は乱気流のように揺れ動いている。周平が気にする、記憶が薄れていく症状も、周平が人生を見直すきっかけのひとつに過ぎず、黒澤明監督の『生きる』(52)のような劇的な展開が待っているわけではない。

 起承転結の型にハマらない、新しいタイプの日本映画だと言えるだろう。