「いい人」のつもりが、「どうでもいい人」と思われていた人生

 物語の主人公は、定時制高校の教頭を務めている末永周平(光石研)。定年退職まで残りわずか。いつもにこやかな表情を浮かべている周平だが、言葉の端々からは大きな問題なく教員生活を送れた安堵感と校長にはなれなかった不満とがせめぎ合っていることが伝わってくる。

 映画の冒頭、周平は介護施設で暮らしている父親を見舞う。認知症が進行しており、息子の顔を前にしても反応を見せることはない。そんな無反応の父親に「いや~、参ったよ。どうしようかね、これから」と語り掛ける。最近、周平も物忘れの症状があらわれ、誰にも打ち明けることができない悩みを、無言の父親に伝える周平だった。

 これまでの人間関係を見つめ直そうと決意する周平だったが、周囲の反応は驚くほど薄い。娘の由真(工藤遥)に「付き合っとる人とかおらんの?」と話し掛けると、おもむろに気持ち悪がられてしまう。ずっとセックスレス状態だった妻・彰子(坂井真紀)にスキンシップを試みると、はっきりと拒絶される。

 学校の生徒たちとコミュニケーションを図ろうとしても、空回りの連続だった。自分では真面目に働く「よき夫・よき父」であり、生徒たちには理解のある「よき教師」のつもりだったが、どうやら自分だけの思い込みだったらしい。「いい人」のつもりが、「どうでもいい人」と思われていた事実が、ボディブローのように周平にダメージを与える。