キャストの表情を逃さないカメラワーク

 光石研にとって、石井裕也監督の『あぜ道のダンディ』(11)以来となる単独映画主演作は、光石の故郷・北九州で撮影された。光石演じる主人公・末永周平は、介護施設で暮らす父親のもとを訪ねる。実はこの父親役は、光石研の実の父親・光石禎弘さんだ。台詞のない役だが、映画の後半、実の息子を見つめる視線がたまらなく温かく、そして優しい。ストーリーや台詞だけを追っていると見逃してしまう、些細なショットこそが二ノ宮監督作品の真骨頂だろう。

二ノ宮「自分の父親は学校の教員をしながら、自分を育ててくれました。そんな父親の背中を見て育ったので、光石さんを主人公にした物語に父親の想いも盛り込ませてもらいました」

 二ノ宮監督の父親は劇中の周平と同じように定時制高校に勤め、教頭まで務めたそうだ。本作は光石研父子の共演映画であるのと同時に、二ノ宮監督と父親の物語でもある。

 映画の後半、光石研のベテラン俳優としての本領が遺憾なく発揮される。自分のこれまでの人生を振り返った周平は、妻と娘に自分の想いを吐露した挙句に「二人に好かれたいんよ。ただ、それだけ」と泣き崩れる。感情ダダ漏れ状態の周平に、唖然とする妻と娘だった。光石研の壊れっぷりが強烈だ。

 撮影を担当したのは、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(21)の撮影監督を務めた四宮秀俊。二ノ宮監督とは『枝葉のこと』『お嬢ちゃん』に続いてのタッグとなる。緊張感のある長回しが特徴的な四宮のカメラワークだが、今回はカット割りを見せるなど、『枝葉のこと』『お嬢ちゃん』とは違った変化を見せている。

二ノ宮「四宮さんとは、今回は光石さん演じる周平と、周平と影響を与え合う人物を切り取る映画にしたいと事前に話しました」