どんなに過酷で悲惨な状況設定でも、女優たちを美しく撮り上げるのが井口昇作品の大きな特徴だ。赤いペディキュアが印象に残る第1話の山本愛莉、大人の女性の魅力を漂わせる第2話の八代みなせ、恋人の前で悶え苦しむ表情がセクシーな第3話の中村有沙。ヒロインたちを美しく撮り上げることで、本作への協力を惜しまない女優たちへの感謝の気持ちを井口監督は表している。
3つのエピソードはそれぞれ少しずつ関わり合っており、井口監督流マルチバース(多元宇宙)な世界となっている。初期代表作『クルシメさん』の公開から25年、大林宣彦監督や鈴木則文監督らを敬愛してきた井口監督の映画作家としての成熟ぶりを感じさせる。クラウドファンディング出資者たちを招いた上映会や知人を集めた試写会は、熱い盛り上がりを見せたそうだ。
井口「特に第3話で中村有沙さん演じるヒロインの秘密が明らかになるクライマックスは、会場全体が異様な熱気を帯びていました。劇場の支配人が室温モニターを調べたところ、その瞬間に劇場の室温が2度上昇したそうです。2回目の上映では湿度もアップしたそうです。もちろんキャストとは綿密に演技内容を確認し合い、お互いに納得した形で撮影を行なっています。映倫の審査はまったく問題なく、PG12指定になっています。お子さんでも保護者と一緒なら、劇場で観ることが可能です。
僕は高校を卒業するまで落ち着ける居場所がどこにもなかったんですが、卒業したその日に団鬼六のSM映画の特集上映を観に行って、『こんなに面白い世界があるんだ』と感激したんです。それ以来、拒食症が治り、もりもりご飯を食べるようになりました。きっと、子どもは見てはいけないとされていたイマジネーションに触れて、初めて開放感を感じたんでしょうね。いかがしいイメージがあったけど、実際のSM映画を観てみたら、ロマンティックでとても丁寧に撮られた世界観で、何よりもモラルを大切に生きるべきだというメッセージが感じられて感銘を受けました。だから現在、自分の性癖や心の居場所がないと悩んでいる人たちに、『異端の純愛』が届けばいいなと思っています。僕が団鬼六のSM映画に勇気づけられたみたいに、若い人に勇気を与える作品になれればいいですよね」