井口「中村有沙さんが『まだらの少女』に出演したのは、12歳のときでした。当時から賢く、品があって、プロ意識の強い女優でした。その後も自分から名乗り出て『ゾンビアス』に主演してくれたんです。今回、多くの女優さんが怖れをなして逃げ出すような難しい役柄でしたが、中村さんならしっかり演じていただける気がして相談したところ、『バタイユって、ジョルジュ・バタイユ(フランスの作家・哲学者)のことですよね?』と答えて快諾してくれました。作品の世界観をしっかり理解した上で演じてくれたんです。中村さんと、僕のワークショップに参加してくれた九羽紅緒さんのお陰で、文学的な香りのするエピソードになりました」
第2話「片腕の恋」に主演したのは、『片腕マシンガール』で颯爽としたアクションを披露した八代みなせ。『片腕マシンガール』の主人公・日向アミを演じてから15年。すっかり大人の女性となって、井口昇ワールドへの帰還を果たした。
井口「八代さんとは、2021年に『片腕マシンガール』のHDリマスター版DVDのリリースの際に再会し、『またご一緒できればいいですね』と八代さんに言っていただいたので、いいタイミングだなと思って声を掛けさせてもらいました。再び片腕のヒロインを演じていただいてますが、あの作品の後日談とも、新たな謎めいた美女とも解釈できる、深みのある演技を八代さんは披露してくれています。
ほとんどの人は『片腕マシンガール』はアクション娯楽作と思っているでしょうが、僕としては体の一部と家族を失ったことで過去には戻ることができなくなった少女の青春映画という意識がありました。だから今回はアクション抜きで“片腕についての思春期物語”を改めて作りたかったのです。自主映画を撮っていた若い頃、先輩監督たちから『人を傷つける気持ちよさを知ったほうがいい』と言われたことがありました。毒のあるその言葉が正しいかどうかは別にして、若い頃にどんな人と出会うかによって、その人の人生は大きく変わることになります。年上の女性に憧れる高校生を軸にして、そうした体験を映像化しています」