井口「最近はLGBT、性の多様化への理解が広まりつつありますが、そこにも入らない性的嗜好、フェチズム(フェティシズム)もあるわけです。世の中にはいろんなフェチがあって、そのジャンルの中でも人の数だけ『それのどこに惹かれるか』というポイントが違うんです。つまり“1人1フェチ”と呼べると思うし、求めるポイントがまったく同じという人はなかなかない。僕も50年生きてきて出逢ったことがないんです。だから人にフェチを説明するのは難しいんです。
僕はアダルトビデオの監督をしていた頃にスカトロビデオを撮ってた時期もあったのですが、『井口さんはウンコを食べるのが好きなんですよね?』とよく誤解されました。僕が関心あるのは、排泄を我慢している人のリアクションやフォルム、恥じらっている心理状態なんです。それを伝えると『食糞する人を否定しているんですか』と反論されたことがありました。『そういうことではなくて、フェチジャンルの中でも、サッカーと水泳くらいに種類がまったく違うんで』と説明してもなかなか理解してもらえないことが多く、その度に孤独感に苛まれてきました。
それゆえに今回の作品は『フェティシズムに惹かれてしまう人々』を外野の人からの見世物的な視点で描くのではなく、『どうして惹かれるようになったのか』という生い立ちと心理を主観的に描くことにこだわりました。僕の幼少期や思春期を正直に物語に取り込んでいるので、他人に見せることには勇気もいりました」
妥協することなく、自身が抱えるフェティッシュな世界観を映画として描きたい。そう思い立った井口昇監督に手を差し伸べたのは、今まで現場を共にしてきた女優たちだった。脚本を準備した井口監督が最初に相談したのは、第3話「バタイユの食卓」のヒロイン・珠子を演じることになる中村有沙だった。