そして筆者の推理を裏付けるかのように、家康は後年、五徳姫に対し、理由のわからない厚遇をしています。信康の死後の五徳姫は、彼との間に生まれた二人の娘を徳川家に残し、岡崎城から現在の近江八幡市あたりに居住しました。最初は信長や兄弟たちから保護を受けられていたようですが、織田家は次第に没落していきます。しかし、江戸時代になってから、五徳姫は家康の四男・松平忠吉(当時、尾張国清洲城主)から1761石の所領を与えられ、庇護下に置かれることになったのです。松平忠吉は、五徳姫にとっては系図上の義弟ですが、彼に所領を義姉へ贈る義理はなく、その裏に父・家康の意思が働いていたと見てよいでしょう。

 通説どおり、家康が本当に信長の命令で泣く泣く築山殿と信康を殺さねばならなかったのであれば、その直接的な原因となった告発状を送った五徳姫を、信長亡き後に優遇することは考えられません。逆に考えれば、後年も所領を与えるほどに、史実の五徳姫は家康からの信頼を得ていたのではないでしょうか。

 ドラマでは、乃木坂46現役メンバーの久保史緒里さんが成長後の五徳姫を演じるようで、「気が強いが、心根は優しい」「徳川家になじみ、幸せに暮らしていたが、信長からある密命を受けたことで、数奇な運命に巻き込まれる」と説明されていることから、信康・瀬名の事件についてもドラマ独自の解釈がなされることになりそうですが、どのように描かれるのか、興味深いですね。