──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

 徳川家康が正室・築山殿と嫡男・信康を粛清したことは、彼の人生における悲劇のひとつだと語られています。ドラマ『どうする家康』では家康(松本潤さん)と瀬名姫(有村架純さん)の関係はずっと良好なままですが、史実の二人は別居したまま、交流らしい交流もなくなっていたようです。しかし、家康にとってさらなる頭痛の種は、彼の嫡男・信康でした。

 一家の不仲は、思いもしなかった結末を迎えています。築山殿は滅敬(めっけい)という唐人医師と不倫し、武田家と内通していると疑われ、天正7年(1579年)8月に家康の家臣の手で殺害されます。同年9月15日には信康も謀反の罪を問われて、二俣城にて自害させられました。この事件の直接の原因は、信康の正室・五徳姫が父・信長に書いた10箇条もしくは12箇条の“告発状”にあり、「築山殿が武田家と密通している」という部分は特に看過できないと判断した信長が、築山殿と信康の母子を粛清するよう、家康に命じたのだ……と語られることが一般的です。