◆すべてがさりげなく、シンプルで、完璧

7話より
7話より
 映画やドラマなど、演劇ではなく映像作品に出演する俳優には、こうしたシンプルさが求められる(というのが、筆者の見解)。その意味で岩田は、かなり際立った映像俳優として、演技のマナーを心得た人だと言える。

 第6話は、冒頭から、感性が鋭い岩田の演技が、流れるように頻出する。みちから関係解消を唐突に告げられた新名が、「それでも、俺は」と言ってこれまで以上に瞳を潤ませる短いアップ。

 次の場面で、家路につく傷心の新名が、マンションの前で風に吹かれる後ろ姿。上の空の新名のネクタイがなびく一瞬も素晴らしい。さらに楓が作ったアクアパッツァを口にして、やや力を込めて発する「うん、美味しいよ」。

 すべてがさりげなく、シンプルで、完璧。新名さんの心の状態が、どん底になればなるほど、むしろ岩ちゃんの演技が湧いて出る。

 夫との関係をやり直そうとするみちに対して、もんもんとしていく新名が、リビングでひとりかち割りワインをぐびぐび(やけ酒だから、コンビニで買った安い赤かな?)。

 みちとの関係性にふんぎりをつけ、覚悟しようとする新名の、うっすらさみしそうだけれど晴れやかな表情など。ドラマが折り返したタイミングともなると、畳かけられる演技の瞬間ばかりで、片時も目が離せない。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu