『隣の男はよく食べる』「いただきます」「ごちそうさま」のリスペクトと感謝
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一方で、自分の作った料理を誰かに食べてもらうささやかな喜びが描かれたドラマも次々生まれている。『きのう何食べた?』(19年/テレビ東京系)や、『作りたい女と食べたい女』(22年/NHK)のほか、前述した『今夜すきやきだよ』にもそうした側面があった。これらのドラマにおける“料理”は、嫁ぐためでも相手に媚びるためでもなく、あくまで趣味(自分のためのもの)として存在する。
毎週水曜、深夜24時30分から放送中の『隣の男はよく食べる』(テレビ東京系)もまた、そうしたドラマの一つだ。
彼氏いない歴10年の35歳OL・大河内麻紀(倉科カナ)が、ひょんなことから隣の部屋に住む年下男子・本宮蒼太(SexyZone・菊池風磨)に手料理を振る舞ったことをきっかけに始まるラブストーリー。料理を通じた交流によって主人公の恋愛も展開していく(しかも年下男子は彼女の料理をどんどん欲していく)のだが、料理が“女性らしさ”の象徴にも、男性に尽くすためのものにも見えないよう工夫されていて面白い。あくまでも“誰かと一緒に料理を食べることの喜び”を描くことに徹底しているのだ。そこでは“料理ができる=いい奥さん”という安直なイコールからも距離が置かれているように感じられる。
近年、ドラマシーンでは、料理や家事ができる女性ならではの悩みにも焦点が当てられている。たとえば手作り弁当を会社に持って行ったら、同僚から“あなたはいい奥さんになれそうだね”と言われ、内心困惑するというキャラクターの心情も描かれるようになった。ただ作ることが好きなだけなのに、自炊をしなくても家計がうまく回るなら作らないのに──些細なことでも花嫁査定にかけられることに対する違和感を、視聴者に投げかけている。