◆助けを求められない理由

――当事者が助けを求められないのはなぜでしょうか?

水谷:本当に「辛い」と思っていない人が多いんです。だから「大丈夫?」と聞かれると「大丈夫です!」と明るく答えてしまいます。どこかで違和感を感じていても、「自分はヤングケアラーだ」とか「家事をやらされて困っている」と自覚できないんです。

本人としては、「自分が家庭を回している」という会社を経営しているくらいの責任感があるようです。一家を回している立場なので、自分を辛い立場だと認識すると立っていられなくなるのではないかと思います。

親が精神疾患を隠している場合は「隠すものなんだ」と刷り込まれている子供もいます。「他人に言ってどうなるのかイメージが全くなかった」と言っている方もいました。

――主人公が学校の先生に「困ってない?」と聞かれて、明るく否定する場面が印象的でした。

水谷:元ヤングケアラーで、小学生の頃すごく良い担任の先生がいたと言っている方がいました。忘れ物をした子のために、自由に使っていい文房具を入れた箱を教室に置いておいてくれたそうです。ヤングケアラーは親が持ち物を買ってきたり、チェックしてくれたりしないので忘れ物が多くなってしまうんです。だからその先生の計らいがすごくありがたかったそうなのですが、そんないい先生にも「言えなかった」と言っていました。まだ子供なので言語化が難しいですし、年齢に関わらず悩み事は人に言えないものだと思います。