◆家事をしない「父親」の問題

――前回、水谷さんはヤングケアラーの家庭の特徴の1つに「父親の不在」を挙げていました。本書でも、父親は健康なのに主人公に家族の世話を丸投げしています。取材された中では、どんなタイプの父親が多かったのでしょうか?

水谷緑さん(以下、水谷):働かないとか酒乱のような分かりやすい「ダメ親父タイプ」はいなかったです。どちらかというと仕事ができて会社で認められている人が多かったです。教師や会社の経営者もいました。大企業勤めで「仕事ができればいいんだ」「稼いでくるのが父親」という考え方の人が多い印象でした。その背景には、家庭の問題から逃げたい気持ちがあるのではないかと思います。

離婚して家庭を去るお父さんもいて、そのあと新しい家庭を作って、ヤングケアラーである子供に再会した時に「俺、今すごく幸せなんだ」と報告してきたそうです。

(画像提供/文藝春秋)
(画像提供/文藝春秋)
――主人公の父親はそこまで酷くはないものの、家庭の問題に対して他人事のように振る舞うところがありますね。

水谷:完全に無視している訳ではなく、「だらしない奴だな」とか「早く起きろ」と自分にできる範囲で妻を叱ったりしています。でも病気に対しては考えたくないのだと思います。

取材した中では、最初に精神科に連れて行った時に「統合失調症は一生治らない病気です」と医師に言われたという話がありました。完治しなくても日常生活を送る上での対処法はあると思うので、医師の言い方がよくなかったのではないかと思います。そういう経験から「もうどうしようもない」と諦めてしまう父親が多かったです。