また、音数を大きく削ぎ落とすことでドラムンベースのミニマル性を強調しつつ、アンビエント的な背景音の輪郭を際立たせた「See you in a Flash」も忘れてはいけない存在だ。
こうした連続性もありながら、前作との決定的な差をもたらしているのがラテンの要素だ。特有の叙情的なコード進行とリズムの躍動感が同居するラテン・ミュージックは元来日本の歌謡曲・J-POPとは相性がよく、古くは雪村いづみ「マンボ・イタリアーノ」(‘55)や西田佐知子「コーヒー・ルンバ」(‘61)といった日本語カバー曲、2000年以降もポルノグラフティ「サウダージ」(‘01)や福山雅治「HEAVEN」(‘01)といったヒット曲が生まれているのは多くの音楽ファンがご存知かと思う。このラテン要素は、「Fantasista」までのDragon Ashに顕著であった、時に声を張り上げ、時に熱くメッセージを打ち出すエモーショナルな側面を取り戻す役割を果たしており、この点は「Scarlet Needle」に顕著に表れている。
彼らがラテンへと向かった理由はさまざまだろうが、そのひとつにドラムンベースとラテン・ミュージックの親和性があると思われる。ラテン・ミュージックは、例えば12拍子を軸にリズム展開の自由さが許容されるフラメンコや、訛りのある16ビートのサンバをはじめ、単にリズミカル/パーカッシブなだけでなく、時に緩急入り混じる複雑なリズムが用いられることが多い。この点で、倍速/ハーフテンポの感覚が入り混じり、シンコペーションも多用されるドラムンベースとの親和性は非常に高いのだ。「Los Lobos」はこのことを示す格好の例となっており、この曲がイントロトラックに続くアルバム2曲目――実質上の1曲目に配されたことからも、彼らはドラムンベースとラテンの相性の良さに自覚的だったと思われる。