ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMCさんが音楽家ならではの観点から、アーティストの知られざる魅力を読み解き、名作を深堀りしていく本連載〈ALT View〉。今回は、1997年にメジャー・デビューし、「Let yourself go, Let myself go」「Grateful Days」「Life goes on」「Fantasista」など数々のヒットを飛ばしたミクスチャー・ロックバンドの雄・Dragon Ashについて、ヒップホップ以外における“ミクスチャー”的要素と彼らの音楽的変遷について解説していただきます。
皆さんは、Dragon Ashという名前からどのような音楽性を想像するだろうか。おそらく多くの方がイメージするのは、ヒップホップとロック(パンク)を融合させた「ミクスチャー・ロック」の代表格として名を馳せた、デビューから2002年頃までの作品ではないかと思う。2010年代中盤~現在の音楽性はよりロックバンド色が強いが、さまざまなジャンルを折衷して作品を構築している点では、彼らを今なおミクスチャー・ロックバンドと呼ぶこと自体は決して間違いではないだろう。
ただ、彼らの音楽性の構成要素として、ヒップホップ、ロック以外のものが挙げられる機会がこれまであまりにも少なかったように思う。例えば、ブレイクした90年代後半の時点ですでに取り入れていたレゲエ。2000年代前半から傾倒し始めたドラムンベースやダブ、エレクトロニカ。そして現在のDragon Ashのスタイルを語る上で欠かすことができないラテン・ミュージック。彼らは(特に2000年代以降)絶え間なく音楽性のアップデートを続けることで、流行に左右されない唯一無二の個性を確立していったように思える。本稿は、そうしたDragon Ashの「もっと光が当たるべき」音楽的な冒険に光を当てる試みだ。