それでいてほぼ全編に渡り、一般的にアッパーで攻撃的な音楽と受け止められやすいドラムンベースが登場する──という点で、『HARVEST』は実にユニークなアルバムだ。ドラムンベースを内省的表現・浮遊感とともにポップミュージックに導入した例としては、近い時代であればエブリシング・バット・ザ・ガール『Walking Wounded』(‘96)があり、この2020年代においてもピンクパンサレス(PinkPantheress)の諸作に見られるものであるが、ギターを軸にしたバンドが90年代後半以降のポストロックの流行ともシンクロするテイストでドラムンベースを消化したという点で、この時期のDragon Ashの先進性は色褪せないだろう。
この時期、ファンもよく知るキングギドラ「公開処刑」(‘02)での批判を受けてバンドおよびKJは試練の時代を迎えていたが、復活シングル『morrow』(‘03)を経てリリースされた本アルバムで、彼らは確実にネクストレベルへと到達した。しかしながら、彼らの音楽的な進化はこれだけに留まらない。
『HARVEST』から2年以上を経てリリースされた『Río de Emoción』(‘05)は、タイトルにも表れているとおり、ラテン・ミュージックのテイストが全面に取り入れられている点でファンを驚かせた。
とはいえ、前作からの連続性も随所に見られる。例えば引き続き多くの楽曲でドラムンベースが用いられている点がわかりやすいが、しかし今作では2・4拍目を強調したギターカッティングを導入したり、ベースのミキシングを強めることでダブ/レゲエのテイストを強め、ジャングル的な方面へと先祖返りしたような内容になっているのが面白い。こうした点は、MC陣のフロウにもジャングル的な影響が垣間見える「Resound」や、ラヴァーズ・ロック的な甘いテイストを纏った「夕凪Union」に顕著である。