「内省的なドラムンベース」をバンドサウンドで鮮やかに描いた『HARVEST』
まずはドラムンベースとの関係について触れよう。ドラムンベースは、90年代にジャングルの流れを汲んで勃興した、当時最先端のビートミュージックのひとつ。ジャングルについては、小室哲哉プロデュースでメガヒットしたH Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~」(‘95)を通じてここ日本でも親しまれた歴史があるが、Dragon Ashはこうした高速ビートが持つある種の「攻撃性」をハードコア・パンクと融合し、加速させていく道を選ぶ。この表現を2001年作『LILY OF DA VALLEY』収録の「Revolater」で血肉化した上で、翌年に満を持して放たれたシングル「Fantasista」は日本テレビ系列放映の『2002 FIFAワールドカップ』のタイアップも奏功し、2週連続でオリコンチャート1位を記録。当時ここまでアッパーかつヘヴィな楽曲を幅広い層に届けたという点で、この曲の功績は非常に大きいものがある。
だが、彼らとドラムンベースの関係はこれだけでは終わらない。前述の「Fantasista」を含むアルバム『HARVEST』(‘03)では、彼らはドラムンベースを「アッパーで攻撃的な音楽」としてだけでなく、掴み所のない浮遊感を醸す表現としても用い始める。テンションのピークを避けるようなコード感の中でディレイの効いたギターや電子音がループする「House of Velocity」はその筆頭だろう。この曲がイントロトラックに続く2曲目に置かれていること、そして一層クリアトーンのギターを軸に据えたタイトルトラック「Harvest」がラストに配されている点は、このアルバムのテイストを分かりやすく表している。
また本作は、折々でエレクトロニカ(フォークトロニカ)~アンビエントにも通ずる柔らかなサウンドのトラックを織り交ぜており、こうした点も含め、Dragon Ash史上でも特に内省的なテイストに満ちている。アンビエントの源流のひとつと目される音楽家、エリック・サティの代表曲を取り上げた「Gymnopedie #1」はその象徴的な一曲だ。